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大阪地方裁判所 昭和55年(わ)6134号 判決 1982年8月05日

本店所在地

大阪府豊中市若竹町一丁目二、六一四番地の二

辻和建設株式会社

(右代表者代表取締役辻一義)

本籍

佐賀県武雄市朝日町大字中野八、三五九番地

住居

大阪府吹田市藤白台二丁目七番八号

会社役員

辻一義

昭和四年一一月二一日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官藤村輝子出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人辻和建設株式会社を罰金一、六〇〇万円に、被告人辻一義を判示第一の罪につき懲役二月に、判示第二、第三の罪につき懲役六月に、各処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人辻和建設株式会社(以下「被告会社」という。)は、大阪府豊中市若竹町一丁目二、六一四番地の二に本店を置き、建築総合請負等を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人辻一義は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人辻は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空外注費を計上し、よって得た資金を仮名の定期預金として留保するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一、昭和五二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一、三一〇万九、五六九円(別紙(一)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五三年二月二八日、大阪府池田市城南二丁目一番八号所在の所轄豊能税務署において、同税務署長に対し、所得金額が欠損三七一万二、三七八円で納付すべき法人税はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四二〇万八、六〇〇円を免れ、

第二、昭和五三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七、三三三万八五七円(別紙(二)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五四年二月二八日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一、三六六万九、六九九円でこれに対する法人税額が四四三万一、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二、八二九万五、四〇〇円と右申告税額との差額二、三八六万四、四〇〇円を免れ、

第三、昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九、九九〇万九、九一二円(別紙(三)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五五年二月二六日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一、二五六万六、六〇二円でこれに対する法人税額が三九一万五、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三、八八三万七、五〇〇円と右申告税額との差額三、四九二万二、五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人辻一義の当公判廷における供述

一、被告人辻一義の検察官に対する各供述調書二通

一、収税官吏の被告人辻一義に対する各質問てん末書一〇通

一、辻キヌエ、菅脩、辻義弘、石田睦朗の検察官に対する各供述調書四通

一、収税官吏の辻キヌエ、菅脩(八通)、辻龍次(二通)、辻義弘、石田睦朗、西川佐恵(二通)、福島忠一、皆口巌(二通)、吉田豊明、内田武久、秋山正(二通)、里見泰宣、中野武佐士、辻民治に対する各質問てん末書

一、入江英治作成の供述書

一、辻民治、菅脩、渡辺康(二通)、岸野享則(二通)、山口弘文、竹田輝彦(四通)、梶要介、入江英治、田村充、稲村昭和(二通)、白井逸夫(三通)、岸本五兵衛、吉井健、多田良太郎、大谷勝之各作成の確認書と題する書面

一、大西康之他五名作成の確認書類と題する書面

一、末藤廣次作成の照会回答書及び照会報告書

一、収税官吏作成の査察官調査書九通

一、大阪法務局豊中出張所登記官作成の法人登記簿謄本

一、検察事務官作成の電話聴取書

一、被告会社作成の法人税確定申告書謄本三通

一、収税官吏作成の脱税額計算書三通

一、豊能税務署長作成の青色申告書提出承認の取消通知証明書

(確定裁判)

被告人辻一義は、

(1)  昭和五三年九月二七日、大阪地方裁判所において、道路交通法違反罪により懲役四月(三年間執行猶予)に処せられ、右裁判は、同年一〇月一二日確定し、

(2)  同五四年一二月二六日、大阪高等裁判所において、同罪により懲役二月に処せられ、右裁判は、同五五年六月月七日確定し

たものであって、右各事実は、検察事務官作成の前科調書によりこれを認める。

(法令の適用)

被告人辻一義の判示各所為は、いずれも行為時においては、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては、改正後の法人税法一五九条一項に各該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中各懲役刑を選択し、判示第一の罪と前記(1)の確定裁判のあった罪、判示第二、第三の各罪と前記(2)の確定裁判のあった罪とは、いずれも刑法四五条後段の併合罪なので、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示各罪につき更に処断することとし、判示第二、第三の各罪は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、被告人辻一義を判示第一の罪につきその所定刑期の範囲内で懲役二月に、判示第二、第三の罪につき加重をした刑期の範囲内で懲役六月に、各処する。

被告人辻一義の判示各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は、刑法四五条前段の併合罪なので同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一、六〇〇万円に処することとする。

(量刑事情)

本件は、被告人辻一義が代表取締役をしている、元請業者の型枠工事部門の下請を主たる業とする被告会社の業務に関し、六、三〇〇万円近くの法人税を免れたという事案である。

本件の動機としては、不況時に備えることと、被告会社の倉庫を購入するための資金作りと認められるが、これらの事情は、いずれも特段に斟酌すべきものとは考えられない。又、犯行の態様も主として架空外注費の計上であるが、これを隠弊するに必要な伝票類は、被告人辻一義自らあるいは情を知らない第三者を介して偽造するなどしており、その手口は極めて悪質である。更に、これらの方法によって取得した裏金は、被告会社の事務員に気付かれぬよう、同被告人自ら金融機関に赴き、仮名の定期預金等を設定しており、被告会社内部からの発覚を防止する努力のあとも窮われる。

次に、確定申告に際しては、被告会社の経理担当者である菅脩の報告に基き、被告人辻一義において申告所得額を決定したうえで申告手続に及んでいる。しかも被告会社設立後間もない昭和四七年頃より既に脱税をしており、同五四年五月には豊能税務署の税務調査を受けたにもかかわらず、判示第三の事実記載のように、従前と同様脱税を敢行しているものである。

このように犯行は、計画的且つ巧妙であり、犯行の動機、手段、方法、態様等をあわせ考慮すれば、その犯行は悪質といわざるをえない。

そのうえ、ほ脱率は平均で約八八パーセントにも及ぶ高率で、被告人辻一義の納税義務に対する態度を如実に表わしている。しかも、判示第二、第三の罪は、前記(1)の確定裁判のあった罪の刑の執行猶予中の犯行であり、被告人辻一義の一般的な法規範遵守の意欲の乏しさを示すものである。

他方、本件発覚後、各年度の納付すべき国税、地方税はいずれも全納されていること、被告人辻一義も公判の最終段階にいたっては自己の罪を全て認め、反省の意を表わしていることなど本件に顕われた被告人辻一義に有利な事情を全て考慮しても、その犯情は重く、到底被告人辻一義につき罰金刑を選択すべき事案とは考えられない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 金山薫)

別紙(一)の1

修正貸借対照表

昭和52年12月31日現在

<省略>

(1)の2

<省略>

(1)の3

<省略>

(1)の4

<省略>

別紙(二)の1

修正貸借対照表

昭和53年12月31日現在

<省略>

(二)の2

<省略>

(二)の3

<省略>

(二)の4

<省略>

別紙(三)の1

修正貸借対照表

昭和54年12月31日現在

<省略>

(三)の2

<省略>

(三)の3

<省略>

(三)の4

<省略>

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